OMIOの投書箱2

年末年始の雑記帳です。

卓上日記 吉村昭

●定刻の始発電車
終戦の四カ月前の夜、私の住んでいた東京の日暮里町は、アメリ爆撃機がばらまいた焼夷弾で炎につつまれた。
・ホームに山手線の電車が入ってきて停車した。むろんホームに人の姿などなく、電車は、ドアの閉る音をさせ、軽い警笛を鳴らしてホームをはなれていった。/その情景が、今でも眼に焼きついている。……空襲で沿線の町々が焼けているというのに、恐らく乗客が一人も乗っていないだろう電車が、定刻通りに走っている。……私は、運転する男の姿を想像し感動した。

宮脇俊三「時刻表昭和史」